文字サイズ

第6回 電話リレーサービス

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]はじめに

 2017年12月3日、羽田空港の第1および第2ターミナルの出発口ロビーに日本初の「手話フォン」が1台ずつ設置され、聴覚に障害のある人のニーズにあった便利な仕組みが1つ、増えました。

空港に設置された手話フォン
(日本財団「電話リレーサービス」Web ページより転載)

[2]手話フォン

 3年前に第1号が設置された手話フォンは、まず聴覚に障害のある人が、かけたい先の電話番号を入力します。そして、通話ボタンを押すと電話リレーサービスセンターに繋がり、手話通訳のできるオペレーターが画面に現れます。オペレーターは手話フォン利用者に簡単に内容を確認してから、相手先に電話をかけ、手話フォン利用者とその相手先との中継、通訳が開始されます。
 利用者が手話でオペレーターに伝えた内容を、オペレーターは相手先に今度は音声で伝え、さらに相手からの返事を音声で受けると、オペレーターはその音声を手話で利用者に伝えるという仕組みです。これは、電話リレーサービスの仕組みの1つで、この他にも利用者とオペレーターが文字でやりとりする方法、さらに文字と手話を併用して行う方法も行われています。
 設置された手話フォンは、背の高い人、低い人、車いす使用者にも利用できるように、カメラの角度を3段階に切り替えられ、それぞれの高さに対応できるようになっています。さらに、車いす使用者がボックス内で回転できるように、充分なスペースも確保されています。

[3]電話リレーサービス

 電話リレーサービスは、1964年アメリカで始まり、今ではヨーロッパ、太平洋州、アジアなど25か国に広がっています。先進諸国は当たり前のサービスになっていますが、最近は、コロンビアやパラグアイなど、開発途上国でも取り組みが始まっています。
 2011年東日本大震災の際、聴覚障害者への遠隔情報コミュニケーション支援では、窓口での遠隔通訳よりも電話リレーサービスのニーズが圧倒的に多い状態でした。このことも大きな契機になり、日本財団が導入を検討し2013年9月から全国向けに試験的にこの電話リレーサービスを実施することになりました。その試みで明らかになったニーズをもとに、仕様等の検討を重ねた結果の一つが、冒頭の手話フォンの設置に繋がっているのです。

日本財団電話リレーサービス・モデルプロジェクトWebページより転載

 試験期間であった1年間で登録者は約2,000名、一人月平均3.5回利用されました。利用者へのアンケートでは、「満足した」が93%、「生活や仕事の効率があがった」が82.5%、「プライバシーが守られている」と思ったが80%と、いずれも有効であると答えた人が多い結果となりました。
 自由回答では、「今まで病院などに確認し忘れたことがあった時は、わざわざもう一度病院まで足を運んだり、気を使いながら手話のできる友人に電話をかけてもらっていた。電話リレーサービスを使うようになってからは、自宅で解決できることが増えて自立したと感じられ、大変嬉しく思っている」(関東・女性30代)、「電車に忘れ物をした時、すぐに電話リレーサービスを使って連絡し、忘れ物を早くと取りにいくことができた」(関東・男性・20代)」など、電話リレーサービスを利用し生活が便利になったという声が多く寄せられました。
 さらに、2017年には聴覚障害者の海や山での遭難と電話リレーサービスを使った緊急通報サービスが相次いだことから、国会でこの問題が取り上げられました。その結果、2018年11月、当時の安倍首相が「電話リレーサービスは大切な社会インフラ、総務省を担当として制度化を進める」と答弁したことで事態は一気に動き始めました。そして、2020年6月、「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が成立し、日本でも法律にもとづいた電話リレーサービスが始まることになったのです。
 コロナ禍では三密をさけるために、非接触、非対面が広がることで、実際に会って会話することが困難となり、電話リレーサービスの需要はさらに高まっています。
 外出、外食が制限されるなか、各種の宅配を頼む時や、テレワークでのネット環境でのヘルプデスクとの会話なども電話リレーサービスが利用されています。
 このような経緯から、2020年10月に電話リレーサービスの普及を専門的に行う機関「一般財団法人 日本財団電話リレーサービス」が設立され、さらに完成度の高いサービスを提供するためにさまざまな取り組みを開始しています。
 多くの人のスムーズなコミュニケーションに電話リレーサービスはなくてはならない存在になっているのです。

 
[写真提供] 日本財団電話リレーサービス