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第7回 コミュニケーション支援ボード

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]はじめに

 コロナ禍により、コンビニエンスストアやスーパーマーケットをはじめとする小売店の会計を行うレジ、病院、銀行、駅、飲食店などの受付では、上からビニールシートを吊るし、飛沫感染を防ぐ工夫がなされるところが増えました。
 ビニールシートは、感染予防のために貴重な工夫ですが、このことにより、なかにはコミュニケーションをとりにくくなっている人たちがいます。ふだんは、レジの向こう側で話す店員さんの口のかたちと、補聴器から入ってくる音声をたよりに内容を理解している聴覚に障害のある人たちです。マスク越し、ビニールシート越しのコミュニケーションは、その人たちのコミュニケーションを二重に困難にさせているのです。
 2020年7月1日から始まったプラスチック製買物袋の有料化により、店員さんは会計の最後に「袋はご入用ですか?」とお客さんに聞くことが一般化されています。けれども、その質問が聞こえない聴覚に障害にある人は、何を言われているか分からない、けれども後ろで待っている人のことを考えると、ここで聞き返し時間を使うよりも、首を縦に振るか、横に振るかで、次に進む選択をする人が多いと聞きました。すると、意に反して袋が出てこない、または、袋を持っているのに店側の袋に入れられ、そのぶんの料金を支払うことになる・・・といったことになってしまうとのことです。

[2]店頭の写真付きメニュー

 以前、お蕎麦屋さんのメニューは、文字だけのものが主流でした。そのようななか、ある街のお蕎麦屋さんの近くに聴覚障害者関係の施設ができ、その利用者がこの店を訪れました。天ぷらそば、カレー南蛮などは文字だけでわかりますが、その店のオリジナルである「うどん定食」は文字だけだと内容がわからず、来店した聴覚に障害のある人は「うどん定食」を指さし、店主に向かって首を傾げました。店主は「うどん定食」の内容を絵にして伝えたことがきっかけで、その店のメニューのなかで、言葉だけでは伝わりづらいものに写真を付けるようになったのです。すると、聴覚に障害のある人はもとより、たまに来店される外国の人にも好評だったとのことです。
 それ以前から多くの国にチェーン店があるファーストフード店では、店頭に写真付きのメニューが置いてあり、指で自分が購入したいモノを指せば、店員さんと言葉は通じなくても希望したものが出てくるようになっています。
 このように、写真や絵を使ったコミュニケーションは、多くの場面で利用できることがわかり、銀行や駅などでも利用されるようになり、2005年4月には日本産業規格(JIS)になって、さらに多くの場所で利用しやすくなっていきました。

[3]コミュニケーション支援ボード JIS

 コミュニケーション支援ボードとは、JIS T 0103の「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則」に記載されている図記号、もしくは同JISで示している絵記号作図原則に沿って描かれた絵記号を組み合わせてボード状に表示されているものです。

JIS T 0103の「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則」
 (左から、手洗い、薬、コンビニ)

 日本国内の交通機関や公共施設の窓口で利用され、コミュニケーション支援ボードとして広がっています。

[4]交通機関

 交通機関におけるバリアフリーの推進を行っている交通エコロジー・モビリティ財団は、交通機関でのコミュニケーション支援ボードの普及につとめており、携帯用と据え置き用の2種類を作っています。携帯用は、据え置き用を作った後に利用者に使い勝手を聞いたところ、常時持っていたいとの要望によって加わったものです。両方とも、ページをめくると「どうしましたか?」のページとなり、聞きたいことが「時間/お金」、「乗り物/駅」、「場所」、「もの」、「ひと」に分けられ、さらに、それぞれのインデックスのあるページにいくと詳細が書かれ、最後のページでは絵を描いたり、筆談できるようにもなっています。

公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団

コミュニケーション支援ボード


 なお、交通関係のコミュニケーション支援ボードは、下記の公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団Webページからダウンロードができます。
http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/comboard/print.html

[5]全国銀行協会

 全国銀行協会は、銀行界におけるソフト面でのバリアフリーを推進する観点から、耳の不自由な方や外国人など、話し言葉や文字によるコミュニケーションに不安のある銀行利用者が、銀行の店頭において希望される取引や手続を円滑に銀行職員に伝えていただくことができるよう工夫を図りました。具体的には、代表的な取引や手続きを、「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則(JIS T 0103)」及び「案内用図記号(JIS Z 8210)」に沿ってデザイン化した「全国銀行協会コミュニケーション支援用絵記号デザイン」を作成したのです。

全国銀行協会コミュニケーション支援ボード(表・裏)

 同協会では、「どこの銀行へ行っても同じデザインによりコミュニケーションを行える安心感」を醸成するため、会員が銀行利用者とのコミュニケーションを図ることを目的として、同種の記号を使用する際には「全銀協絵記号デザイン」を使用することを推奨しています。

[6]JIS絵記号スタンプ

 技術の進化により今やIT機器全盛ともいえる状況ですが、今回紹介したボードはスマホやタブレットによる活用も増えてきています。大手航空会社では、CA(客室乗務員)が乗客とのコミュニケーションに、この支援用絵記号を利用し効果をあげています。
 さらに、日本規格協会では1昨年から、コミュニケーションツールであるLINE用にJIS絵記号が使用できるようにしています。
 [参考] JIS T 0103 で規定されているコミュニケーション支援用絵記号のスタンプ
 LINE STORE Webページ:
    https://store.line.me/stickershop/product/3908403/ja

[7]コロナ禍でのコミュニケーション支援ボード

 コロナ禍で、聴覚障害者が利用する各種店舗や施設でのコミュニケーションの困難さは、今回紹介したコミュニケーション支援ボードを工夫して使うことによって、減少することができると思います。例えば、商業施設のレジに置くコミュニケーション支援ボードには「レジ袋」の図記号を表示し、店員さんがそれを指さし、耳の不自由なお客さんに必要の有無を確認するといった工夫です。
 それぞれの場所で、それぞれの場所にあったコミュニケーション支援ボードの導入を検討しされてみてはいかがでしょうか?