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第8回 筆談器

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]はじめに

 海外に行った時に、買い物、食事、交通機関などで話が通じず、困った経験はないでしょうか?意図しない食事や飲み物が出てきたり、買ったものの金額がわからず、常に紙幣を出しての買い物で財布に小銭がたまったりなど・・・。
 そんな時の解決方法の一つとして、数字を紙に書く、絵で書くことによって、困ったことを回避できることもあります。ただ、そういう時に限って、メモや筆記具を持っていないことが多いのは不思議です。
 日本では最近、駅、空港、銀行、病院、百貨店、スーパーマーケット、映画館、各種イベント会場などの窓口に「筆談器あります」の表示が増えてきました。A5判サイズの大きさで、厚みが1センチほどの盤の中央には横18センチ、縦12センチの大きさで字や絵をかけるスペースがあります。ペンは先にマグネットが付き、盤の下にある砂鉄を盤の表面まで持ち上げる役目をし、それによって盤に字や絵を書くことができます。

普及してきた筆談器

[2]はじめは玩具

 耳が不自由な人や、声を出すことが困難な人、言語が異なる人が、各施設の窓口でモノを尋ねるとき、これは便利に使われています。この筆談器は、元は幼児用のお絵かき玩具でした。
 紙でいうとA3判ほどの大きさの盤に、先にマグネットが付いたペンで書き、その後レバーをスライドさせると書いた絵や字を消すことができ、何度でも使える玩具です。
 発売されてから15年経ったある日、看護師からメーカーに問い合わせがありました。
 「私が勤務する病院に入院している高齢の女性は、声が出なくなったため、御社の玩具で筆談をし、家族や私たちとコミュニケーションができています。ただ、A3判サイズの大きさでは持ち運ぶ時に大きすぎること、そして色あいが少しシックなものになれば」との連絡でした。その玩具メーカーの担当者は、病院を訪ね、さらに詳細を聞くとともに、他の病院へも出向き、同じニーズがあることを確かめました。ニーズを聞いてから一年、A5判サイズで、薄い青色の枠とした商品が店頭に並び、他社製品の先駆けとなって販売されたのです。
 1990年から、一般社団法人日本玩具協会では、目の不自由な子どもたちもともに遊べるおもちゃを「共遊玩具」と名付け、パッケージには盲導犬マークが表示されていました。
 そこに、耳の不自由な子どもたちも一緒に遊べる玩具の第一号として、字や絵がかけ、筆談にも適したこの玩具が加わったのです。パッケージには「うさぎ」のマークが表示され、消費者及び販売する玩具店の人たちへもマークでその意味を伝えています。
 玩具のパッケージやカタログにうさぎマークを表示するには、日本玩具協会では、下記の条件が必要とされていますが、紹介した筆談器は3)の条件を満たしているのです。
 1)音と同時に、光、振動、動き、文字、絵等の要素で遊びを盛り上げるおもちゃ
 2)音の強弱や高低が調整できる、あるいはイヤホーン等の端子がついているおもちゃ (ただし、ピアノ等の音階がある楽器類はうさぎマーク対象外とします)
 3)筆談のコミュニケーションができるおもちゃ
 4)光、動き等により、スイッチのON-OFFがより明確に確認できるおもちゃ
 5)オートオフ機能が付いているおもちゃ

耳が不自由な子どもも共に遊べる玩具を示す「うさぎマーク」

うさぎマークのおもちゃ(日本玩具協会Webサイト):
  https://www.toys.or.jp/jigyou_kyoyuu_usagi.html
看護師の意見から生まれた玩具「ハンディーせんせい」

[3]コロナ禍で

 コロナ禍では、三密をさけることが強く推奨され、マスクの着用も定着してきました。
 けれども、耳の不自由な人にとっては、三密、マスクによって、相手の口の動きと形で話の内容を理解することが困難になっています。そこで、必要になってくるのが筆談です。メモ帳でももちろんできますが、何度も書いて消せる筆談器は、コロナ禍においては、ふだんよりもさらに重要な機器になってきています。