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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

TEACCHプログラムの手法を活用したアプローチ

種別障害者施設
開催年2016
テーマ職場づくり・専門性向上
TEACCHプログラムの手法を活用したアプローチ

社会福祉法人阪神福祉事業団

ななくさ育成園

TEACCHプログラムとは

ななくさ育成園では、自閉症の方をはじめ、さまざまな障害を有する利用者に対し、最大限、個性に配慮した支援を行っています。
ここでは、資料2のような特性を持つ自閉症の方に、「TEACCHプログラム」の手法の一部を活用した取り組みをご紹介します。

「TEACCHプログラム」は、アメリカのノースカロライナ州で実施されている、自閉症などコミュニケーションに障害がある子どもたちや、その家族に対する包括的対策プログラムの名称です(資料3)。
今回ご紹介する事例では、「不適切な行為ではなく、得意なことに目を向けて伸ばす」「自閉症の方の適応力を高め、一人ひとりが理解しやすい環境を整える」の2つの方法を用いています。
「得意なことを伸ばす支援」では、例えば、ズボンの紐を独自の方法で結ぶことを繰り返す方に、活動プログラムとして「紐結び」を提供し、商品の飾り紐を作ってもらうといったことです(資料4)。

利用者に合わせたトレーニング

私たちはTEACCHプログラムを「“ちいきへいこう”支援プログラム」(資料5)で実践しています。特に、「評価(SITTOTTO)」「日中活動」「自活棟の利用」「外出支援」に絞って取り組みをご紹介します。

まず「評価」とは、その方の得意なことや苦手なこと、コミュニケーションの取り方などを知ることです。これを日中活動の支援などにつなげていきます。「SITTOTTO」とは、育成園オリジナルの評価システムです。決まった枠内に塗り絵ができるかなど、1時間ほどをかけてチェックするものです。
次に「日中活動」についてです。活動スペースは職住分離を意図的に設定し、利用者が気持ちの切り替えを行いやすいように配慮しています。ここでは、一人ひとりが課題に取り組むことで、達成感を味わったり、地域の作業所で働くためのスキルを身に付けたりなどしています。例えば、紐に専用のビーズを通してアクセサリーを作る作業や、入浴剤の計量など、利用者一人ひとりの強みを生かしながら作業を行っています。
また、靴下の仕分けや衣類を畳むなど、生活に必要なスキルをトレーニングする課題も行っています。これらは、利用者自身の生活の場面に生かされます。
「自活棟」は、法人の敷地内にある施設で、利用者が将来、地域で生活ができるよう、さまざまなトレーニングを行う空間です。
例えば、ある方には、人の声を録音した音声タイマーとスケジュールカードを渡し、朝食や歯磨き、洗濯などを行っていただいています。これは、職員が声をかけなくても、自立して行動することを目指した支援です。
また、バスなどの公共交通機関を利用して、買い物や散髪に行くトレーニングも行います。バスの利用では、乗り降りの際に決まった場所にICカードをタッチするトレーニングや、正しいバスの乗降の仕方を説明するビデオを作成するなどし、対象の方々に見ていただいたりしました。
買い物では、会話によるコミュニケーションが難しい方には、あらかじめ「ポイントカード等はありません。この中からお金を取ってください。レシートや領収書・おつりを入れてください」と明記したカードを提示し、財布を渡してお店の方に対応していただくなどの手法を取っています。

利用者の通院や手術の支援を通して

自閉症の方が地域で生活するにあたり、困難が生じやすいのが病院の利用です。そこで、自閉症のAさんに対する、病院への通院や手術の支援についてご紹介します。
Aさんは20代の男性で、自閉症を有する重度の知的障害で、てんかんもあり、障害支援区分は6です。若年性の白内障と診断され、入院や手術をすることになりました。その際、本人の母親とともに、Aさんの障害特性から予測される、あらゆる行動を事前に病院に伝えました。
それでも、想定外の行動があり、その度に対応に追われましたが、何とか手術を終えました。Aさんが施設に戻られてからは、点眼が必要であることを理解していただけるよう働きかけ、職員がケアを行いました(資料6,7)。

この支援を通して、私たち職員は、利用者の言葉にできない思いを、こまやかに感じ取る姿勢が大切だと、改めて気づかされました。今後も利用者に寄り添うことで、こうした思いをくみ取っていきたいと思います。
また、自閉症の方が病院を利用するには、本人と家族、職員、医療機関が一つのチームとなって臨む必要があることも分かりました。関係者との連携を日常的に構築し、ご本人と社会資源とのつながりを強めていくことが、今後の課題です。