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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

四條畷荘いっぷくステーション 『よろか』

商店街の空き店舗を活用した 地域福祉の拠点作り
種別高齢者施設
開催年2017
テーマ地域公益事業
四條畷荘いっぷくステーション 『よろか』

社会福祉法人 大阪府社会福祉事業団

特別養護老人ホーム「四條畷荘」

地域の福祉的ニーズを地域との連携で解決する

当法人は、「地域福祉の拠点作り」をテーマに、商店街の空き店舗を活用した地域公益事業「いっぷくステーション『よろか』」を運営しています。
近年、社会福祉法人のあり方が活発に議論されていることから、当法人でも地域公益事業実施要綱を策定しました。そして、平成27年9月に地域住民向けサービスを展開するサテライト拠点として「よろか」を開設。通いの場をベースとした事業展開に加え、専門職がより地域に密着して活動することで、社会的要援護者の「発見・見守り・相談・つなぎ」の機能を目指しています。
これまで、当施設は「地域に開かれた施設作り」の理念のもと、ボランティアや実習生の受け入れなど、施設で地域住民を待つ取り組みを中心に行ってきました。しかし、それだけでは地域の福祉ニーズを十分に満たすことができないとの考えから、施設を出て、地域住民の身近な場所に新たな拠点をつくることにしたのです。
その場所として注目したのが、当施設が所在する四條畷市の商店街です。この地域は非常に高齢化が進んでおり、商店街があるエリアの高齢化率は40%近くにもなります。杖や手押し車を使って買い物をする高齢者が多く、休憩場所や、気軽に相談できる身近な窓口の必要性を感じました。
こうして、商店街に高齢者を対象とした地域福祉の拠点を設けることが決まり、不動産会社や家主のご理解により、商店街の入り口という好条件の空き店舗を、予算内で賃貸契約することができました。
続いて取り組んだのが、地域福祉に携わる方々や団体との連携です。「よろか」が地域の社会資源として広く認知され、有効活用されるためには、介護保険事業者や行政、社会福祉協議会、民生児童委員会や自治会などとの連携が欠かせません。さまざまな立場の方々と意見を交わすことは非常に有効で、事業を開始してからも定期的に情報交換や意見交換を行っています。また、商店街組合への説明もていねいに行うことで理解を示していただき、組合に加盟することができました。
そして、運営に関してはボランティアとして四條畷市が奨励する介護予防体操「カラコロ体操」の参加者に携わってもらうことになりました。さらに、ボランティアの全国組織であるNPO法人ナルクとも連携し、定期的にボランティアを派遣していただくことで、地域住民への多様なサービスの提供を実現しています。

資料1

交流のきっかけをつくる多彩なプログラム

「よろか」の活動日は月・水・金曜日で、時間帯は、買い物客の往来が多い11時から17時としました。午前中は介護予防を意識したビデオ体操を行い、お昼は商店街で購入したお総菜や、持参したお弁当を一緒に食べます。午後からは絵手紙やペン習字、小物作りなど、地域のさまざまな協力者に用意していただくプログラムを楽しんでいただきます。なかでも、地域の整骨院が指導する「若返り体操」や、訪問看護事業所の看護師が健康相談を受ける「街の保健室」、四條畷学園大学看護学部の教授による健康講座などは、利用者が最も関心を寄せる「健康」をテーマにしているため、人気のプログラムとなっています(資料1)。その他、薬局の薬剤師による「お薬相談」や、管理栄養士による「栄養講座」なども、関係機関の協力で実施しています。
「よろか」の利用法として、健康作りの次に求める声が多かったのが、交流の場としての機能です。これについては、さまざまなプログラムを提供することで、参加者同士の交流を自然な形で活発にすることができました。「折り紙友の会」という、利用者の自主グループも立ち上がっています。この会では毎回、利用者同士で課題と材料を用意して教え合っており、今では「よろか」の定例プログラムの一つとなっています(資料2)。

資料2

なお、「よろか」の活動は地域公益事業であることから、会費や喫茶代、材料費などの費用は一切徴収せず、すべて当法人が支出しています。
また、「よろか」の企画や運営に地域住民の声を活かす目的で行っているのが「サポーターミーティング」という意見交換会です。サポーターの皆さんは、もともとプログラムを手伝ってくださる利用者でしたが、次第に主体的に活動していただけるようになり、現在は運営側に立ってプログラムを支えていただける存在になりました(資料3)。

資料3

「よろか」では、理念の一つに「来る人だけではなく、来られない人にも思いを馳せる敷居の低いステーション」を掲げています。この理念を実践するために取り組んでいるのがアウトリーチ活動です。 「よろか」に職員を2名配置し、1名が商店街の巡回に加え、閉じこもりがちな高齢者や生活困窮者の支援を行うものです。地域住民や関係機関などからも情報を得て、支援が必要な方にはこちらから出向いて行くことを基本としています。
この活動を行うメンバーは、ケアマネジャーやヘルパー、地域包括支援センターなどの在宅サービス部門職員、特別養護老人ホームなどの専門職員で構成し、「発見」「見守り」「相談」「つなぎ」を合言葉にしています。
このアウトリーチ活動について、60代前半の介護保険対象外の方を支援した事例を、簡単にご紹介します。きっかけは、民生児童委員から「いつも同じ服装で汚れており、臭いがきつい。自殺をほのめかす発言があった」と、地域包括支援センターに情報提供があったことです。本人を訪ねると、最初は鍵を開けてもらうこともできませんでしたが、徐々に打ち解け、やがて「よろか」にお連れすることができるようになりました。その後は、地域包括支援センターの職員が中心となり、支援を継続しています。さまざまな情報提供に、臨機応変に対応できることは「よろか」ならではの特色です。一事例に対する活動期間は平均1か月弱ですが、ケアマネジャーや、地域包括支援センターなどの専門機関から、社会資源の一つとして認知されつつあるとの手応えを感じています。
「よろか」を開設した当初の利用者は、1日当たり21人でしたが、それから2年以上をかけ、徐々に利用者が増えています。「よろか」の最終目標は、地域住民グループへの運営権の委譲です。利用者の多くは高齢者ですが、一部の方は支え手側に回ることが可能であると感じています。
今後も、住民の自助と互助、専門機関を含めた共助を、それぞれコーディネートできる地域福祉の拠点を目指していきます。