文字サイズ

福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

認知症になっても安心して暮らせる地域を目指して

所沢市三ヶ島地区認知症SOSネットワーク模擬訓練報告
種別高齢者施設
開催年2017
テーマ地域公益事業
地域貢献
認知症になっても安心して暮らせる地域を目指して

社会福祉法人 桑の実会

三ヶ島第2地域包括支援センター

認知症高齢者を地域全体で支えるために

私たちが、埼玉県所沢市三ヶ島地区で行った「認知症SOSネットワーク模擬訓練」をご報告させていただきます。
埼玉県の高齢化率は全国でもトップクラスで、なかでも所沢市三ヶ島地区の高齢化率は非常に高くなっています。当法人の包括支援センターに寄せられる相談も、認知症に関する内容が上位を占めています。特に、施設に入所するほど重症ではない軽度認知症高齢者に対する相談が目立つため、こうしたケースをどのように支援するのかが課題でした。そこで私たちは、地域住民の方々自身が中心となった見守りの支援体制が必要ではないかと考えたのです。
初めに当法人が取り組んだのが「認知症サポーター」の養成です。認知症に関する知識と理解を深め、地域や職域で認知症の人や家族に可能な範囲で手助けができる人材の育成が目的です。約2年をかけて民生委員や自治会、ボランティアグループ、小学校PTAなど、さまざまな機関で養成講座を開催しました。この取り組みにより、地域から300名以上の認知症サポーターが誕生し、その証であるオレンジリングを配布しました。しかし、そのほとんどがもともと認知症の方の支援に取り組んでいた方々です。地域全体に支援のネットワークを広げるには、もっと多くの住民に参加してもらわなければなりません。
そこで、私達が注目したのが、福岡県大牟田市で長く行われている「認知症SOSネットワーク模擬訓練」です。認知症の方が行方不明になったとの想定で、地域住民がグループになって対象者を捜索、発見し声掛けをする訓練です。実際に地域を舞台にして模擬訓練を行うことで、その様子を見た一般の方にも興味を持っていただけますし、認知症サポーターの活動の場にもなります。これをぜひ三ヶ島地区でも実施しようということになり、実行委員会を立ち上げる運びとなりました。
実行委員会の母体としたのは、以前から所沢市に設置されていた「地域ケア会議」です。市や地域包括支援センターの職員、民生委員や自治会、ボランティア団体などで構成される、地域課題解決のための組織です。この組織に実行委員会を立ち上げ、さまざまな機関に協力を呼びかけることにしました(資料4)。また、模擬訓練の準備で大きな会場が必要となった際には、地域の自治会や民生委員、ボランティアの方々で構成する「まちづくり推進会議」福祉部会の会長が尽力してくださり、小学校の体育館を借りることができました。

資料4

模擬訓練の実施と地域主体の取り組みへの展望

こうして準備を進め、三ヶ島第二地区で平成26年度に1回目、27年度に2回目を行い、平成28年度に三ヶ島地区全体で3回目の模擬訓練を実施しました。
訓練の拠点としたのは、所沢市立宮前小学校の体育館で、その周辺となる東狭山ヶ丘エリア一帯が訓練地域です。お子さんにも来てもらえるようにと、開会式には埼玉県のマスコット「コバトン」、所沢市のイメージマスコット「トコろん」を呼びました。
次に「声掛け練習」に関する講演として、1回目には、認知症介護研究・研修東京センター研究部長の永田久美子氏にお越しいただきました(資料5)。それから、大牟田市の取り組みを参考に、当法人の職員が参加者の前で模範演技を行った様子が、資料5の下の写真2枚です。

資料5

そして、いよいよ模擬訓練開始です(資料6)。認知症の方の役をしていただく方々には資料6のように傘をさしてもらい、訓練エリアに分散していただきます。公園や歩道など、あらかじめさまざまな設定をしました。認知症の方役の配置が完了したら捜索役の方々でチームを組み、認知症の方役を探して見つけたら声を掛けていただきます。なお、この認知症の方役は、主に所沢市のグループホームの職員を中心にお願いしました。日頃から認知症の方と関わりを持っている皆さんということもあり、迫真の演技で、多くの参加者から「非常に実践的だった」との感想が寄せられました。

資料6

また、模擬訓練では、小学校低学年のお子さん向けに別のプログラムを用意しました。認知症について楽しく理解してもらえるようにと、寸劇を行うなかで、「困っている人を見つけたら大人を呼びましょう」と伝えました。
模擬訓練の最後には、参加者全員でグループごと「振り返り会」を行いました。これは、訓練そのものを振り返るとともに、普段接点のない地域の人たちと交流をするよい機会にもなったと感じています(資料7)。

資料7

この振り返り会やアンケートから、いくつか参加者の声をご紹介します。

  • 知らない人に声を掛けるのは意外と勇気がいる。普段から地域の人に声を掛けていないことを実感した。
  • 参加者の真剣さに心を打たれた(介護タクシー関係者)
  • 今までお年寄りと接したことがなかったけれど、この訓練で初めて認知症が問題になっていることを知った(小学生)
  • のぼりを立てていたので目立った。地域の関心のない人たちにもよいアピールになったと思う

上記のようなありがたい感想をいただきました。
なお、3回目の模擬訓練では、実施主体をまちづくり推進会議福祉部会に移し、当法人はサポートに回りました。地域が主体となることで、地域の人たちが認知症を他人事ではなく自分事としてとらえ、行動できるようになればと考えてのことです。この回には、他県の地域包括支援センター職員や、所沢市長も訪れました。
今後も、地域主体の訓練を推進し、継続していくことで、認知症になっても安心して暮らせる地域づくりにつないでいけたらと考えています。