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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

全ての職員が働きやすい職場働き続けられる職場を目指して

種別高齢者施設
開催年2017
テーマ職場づくり・専門性向上
全ての職員が働きやすい職場働き続けられる職場を目指して

社会福祉法人 泰仁会

特別養護老人ホーム「やさと」

きっかけは職員の託児ニーズ

当法人は、茨城県石岡市で平成7年10月に特別養護老人ホーム「やさと」を開設しました。その後、ユニット型特別養護老人ホームの開設、在宅サービスなど事業を広げ、現在はグループとして医療法人江隆会、介護老人保健施設を持っています。職員は法人全体で193名。このうちEPAによる介護福祉士候補者が14名おります。今回は、当法人が全職員のワークライフバランスを実現するために取り組んだ内容をご紹介します。
当法人がこの取り組みを始めるきっかけとなったのは、平成13年ごろに結婚・出産した職員から「子どもを預ける場所がない」と聞かされたことです。職場に復帰したくてもできない状況を改善するため、平成15年に、事業所内に託児所を開設しました。その後、子育て支援制度の整備を中心に進めていましたが、次第に子育て世帯に限らず、全職員にとってよりよい職場にすべきと考えるようになり、全職員を対象としたワークライフバランスに取り組むことにしたのです。
初めに着手したのは、ワークライフバランスにかかわる次のような基本理念の策定です。

  • 全職員が充実した生活を実現し、法人経営理念の実現につなげるため、生き生きと働き、一人ひとりが活躍できる環境をつくり、個々人の目標や夢を実現できる職場づくりを行う
  • きやすい職場・働き続けられる職場・やりがいのある職場を目指す

職員が満足しなければ、利用者の満足度も向上しません。職員研修の際には必ず基本理念を伝え、明確なビジョンを描いてもらうようにしています。
次に、取り組みを進める上で工夫した点についてご説明します。資料8に、主な内容を箇条書きにしました。

資料8

これらのなかで特に苦労したのは職場風土の改革です。豊かな人生を生きるためには仕事をどのようにしていけばよいのか。100人いれば100通りのワークライフバランスがあるわけですが、これを実現するためには、お互いの認め合いや、「お互いさま」の意識を持つことが大切です。そこで、当法人は全職員の意識改革をするため、ワークライフバランスについて繰り返し話す場を設け、トップからの発信ということで、施設長からも徹底した語りかけを行いました。取り組みのなかでは、このプロセスが最も時間をかけた部分です。
また、職員へのアンケート調査を行うことで職員のニーズを正確に把握し、規定の改正などに反映しました。直近では、育児短時間勤務にフレックスタイム制を導入し、利用者の生活に合わせたシフト改善を行っています。
さらに、平成17年からはグループケアを導入しました。4つのグループにそれぞれ7~9名の職員と、EPAによる介護福祉士候補者3名を配置しています。グループごと、主任を中心に上級者、中級者、初級者をバランスよく配置している点がポイントです。これにより、情報の共有や組織性が向上しました。
また、勤務シフトを12パターン作成し、各グループの利用者および職員の状況に合わせた勤務シフトを活用しています。これは、ワークライフバランスの向上もさることながら、利用者に対するサービスの向上にもつながっています。
さらに、申し送り体制や業務フォロー体制の充実を図ったことも特長です。時間外に行っていた会議などを時間内に移すことも徹底しました。

制度の充実と主な取り組み

次に、制度の利用状況をご紹介します。
資料9は特別有給休暇の取得実績、資料10は有給休暇の取得実績です。

資料9

資料9にある「子育て支援休暇」は、子どもの学校行事への出席などに利用できる法人独自の休暇です。今のところ、中学3年生までの子どもを持つ親のための制度としています。看護休暇や介護休暇も含め、法律で定められている取得日数を上回る制度として運用中です。最近では、介護休暇のニーズが高くなっていると感じています。その他、女性の育児休暇取得率が100%である点も特長です。もちろん、当法人としては男性の育児休暇取得の推進にも力を入れています。

資料10

資料10の年次有給休暇についても、平成28年度までは当年度付与の8割を取得することを目標にしました。その結果、平成27年度と28年度は、法人全体で8割を超える取得率を実現。これは「お互いさま」の意識を浸透したことで、職員同士の協力体制が強くなり、働きやすい職場へと変化したことの表れであると考えています。
こうした制度の整備に伴い、離職率にも変化が見られるようになりました。平成19年度の離職率は24.3%と非常に高くなっていましたが、平成28年度には6.6%にまで下げることができました。 働き続けられる職場を目指した当法人の取り組みが、形になってきていると感じています。
その他、主な取り組みを資料11にまとめました。特に特長的な取り組みの一つが「自己実現のための研修支援」の充実です。資格取得やスキルアップにかかわる費用はすべて法人負担とし、研修や試験で不在にする日も出勤日扱いとしました。

資料11

これらの取り組みが評価され、平成28年には茨城労働局長より「ベストプラクティス企業訪問」 を受けました。常に、もう一歩進もうとする当法人の意識が、職員の成長や働き方改革、利用者の満足度向上につながっているのだと思います。
また、こうした考えのもと、当法人では平成29年より、ワークライフバランスを「ワークライフマネジメント」に改称し、経営戦略として取り組むことにしました。こうした取り組みを進める上で重要なのは、法人の規模にかかわらず、利用者の満足を第一に考えた上で、職員自身が改善点や工夫できる点を考え、行動することです。これこそが、働きやすい職場の雰囲気をつくり、ワークライフバランス(ワークライフマネジメント)の実現へとつながっていくのだと考えています。