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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

障害者支援施設における 災害対応事例と防災体制の強化

就台風災害による 長期断水への対応例を中心に
種別障害者施設
開催年2017
テーマ災害時の危機管理・BCP、復興
障害者支援施設における 災害対応事例と防災体制の強化

社会福祉法人 厚生協会 障害者支援施設「屈足わかふじ園」

台風災害による長期断水

当園は、日中の生活介護が55人、施設入所が52人、短期入所が3人の利用者定員となっている障害者支援施設です。障害支援区分6が32人と最も多く、平均区分は5.5くらいです。そして、最近は加齢に伴いさらに重度化している状況です。今回は、2016年8月に北海道十勝を襲った台風による長期断水時の対応について発表します。この大雨被害は、1回の台風によるものではなく、4回の台風が重なったことで発生しました。特に大きな打撃となったのが、2016年8月29日~31日にかけての台風10号です。町内では河川の氾濫や決壊、土砂の流出が相次ぎ、停電や携帯電話の不通により、多くのスタッフと連絡が取れない状況にも陥りました。なかでも特に問題だったのは、水道取水口が全壊し、流出したことです。当園はもともと8トンの貯水タンクを持っているため、断水になっても直ちに水道の水が止まることはありません。しかし、そのために断水していることに気づくのが遅れ、「断水が続くかもしれない」との情報を入手したときには、もう貯水タンクには水が残ってない状態だったのです。そして、1か月以上の断水になる可能性が高いとの連絡を受け、改めてどのように水を確保するかについて試行錯誤することになりました(資料①)。被災後に、町内の数か所に給水所が設置されました。飲料水や食事に使用する水に関しては、給水所の水や非常用として備蓄していたペットボトル約300リットルでまかなうことができますが、生活用水が足りません。入所者52人分の生活用水を給水所に取りに行くのは困難です。やはり貯水タンクなどを活用し、大量の生活用水の確保が必要だと判断しました。しかし、この時点ではまだ給水に使える物品が十分にそろっていませんでした。そこで、500リットルタンクと20リットルタンクを購入しようとしましたが、売り切れている店が多く、何件も回り購入しました。さらに、8トンの貯水タンクと浴槽を活用することにしました。資料②は、浴槽に給水している様子です。ボイラー室の中にある貯水タンクと500リットルタンクには、毎朝、消防署に給水していただきました(資料③)。

資料①

資料②

資料③

給水した水をどう使うか

給水した水の使用方法についてご説明します。毎日、給水されるようになったことを受け、まずは利用者にお風呂に入って温まっていただこうと考えました。しかし、5人の入浴を行った時点で8トンの水が底をつきました。そこで、体や髪を洗って流す必要最低限の入浴に切り替えました。しかし、それでも10~13人ほどで水がなくなります。そこで、入浴は1度に10人程度を週1回とし、それ以外の日はドライシャンプーやウェットティッシュで対応しました。このウェットティッシュは、洗顔などにも活用しました。そして、500リットルタンクは、1つを調理場で使い、もう1つは職員の手洗いなどに使うため20リットルタンクに給水しました。2リットルのペットボトルは、主に口腔ケアに使用。普段は1日3回行っていた口腔ケアを、断水期間中は1日1回としました。また、思ったよりも使用頻度が高く、最も水量が必要だったのはトイレの排水です。1回の洗浄に10~13リットルの水を使用するため、浴槽の水を90リットルのバケツに移し、各トイレに設置して職員がバケツで流す作業をしました。食事は、麺類やゆでる料理、生野菜はかなりの水を必要とするため、提供自体を控えました。米も無洗米に切り替え、味噌汁も提供回数を減らし、足りない水分はペットボトルのお茶などを購入して提供しました。ペットボトルの水は地域の皆さんをはじめ各所から寄付をいただきましたが、実際にはあまり使い道がありませんでした。食器は、普段のものにラップをして使いましたが、利用者向けとしては実用的ではなかったため、使い捨て食器を使用しました。小鉢や平皿などバリエーションをつけると経費がかさむため、断水中はワンプレートの盛り合わせにしました。次に、感染予防についてです。普段は毎食、手洗いを徹底していました。断水中はアルコールと次亜塩素水による定期的な消毒に切り替えましたが、洗面台を流す事が出来ないため、1週間ほどたつと、施設内に下水臭が漂うようになり、体調不良を訴える利用者が増えてきました。さらに、洪水が引いた後に残った泥が乾燥し、汚染された粉塵が町内に舞ったことも原因の一つと思われます。そこで、定期的な洗面台の排水やマスクの着用を徹底しました。当法人では、この被災経験を受け、水害に対する防災マニュアルの見直しをしました(資料④)。情報が遮断され、意外と役立ったのがFacebookやTwitterなどのSNSです。また、被害状況の確認や給水の依頼で役場や水道局に連絡をした際、たらい回しになったことがあったため、防災関連の連絡先の一覧表を作成しました。周辺施設の点検については、避難時の遊歩道や施設周辺の側溝、排水溝なども含みます。また、職員の招集方法と担当業務については招集基準を定め、業務別に速やかに対応できるよう整備しました。今回の台風・大雨災害を経験して学んだのは「プロアクティブ」の原則が大切であるということです。3つに整理してご紹介させていただきます。1つは「疑わしいと思うときは行動せよ」です。被害報告などを待ち、状況がはっきりするまで動かずにいると、対応が後手に回ってしまいます。もう1つは「最悪の事態を想定して行動せよ」です。自分に都合のいい情報だけを信じてはいけません。最後の1つは「空振りは許されるが見逃しは許されない」です。見逃したことで状況が悪化してしまうことも考えられます。たとえ空振りに終わったとしても、積極的に行動するべきです。この発表が、これから起こるであろう災害に対する危機管理のヒントになれば幸いです。

資料④