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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

地域に根ざし、高売上を実現するファール ニエンテ(A型事業所)の挑戦

『味・ひと・場所』 三位一体の訴求力
種別障害者施設
開催年2018
テーマその他創意工夫
地域に根ざし、高売上を実現するファール ニエンテ(A型事業所)の挑戦

社会福祉法人 開く会

ファール ニエンテ

ファールニエンテの概要

当法人が、4年前に立ち上げたA型事業所「小麦畑の石窯食堂 ファール ニエンテ(以下、ファール ニエンテ)」の取り組みについて紹介させていただきます。 当法人は1990年に設立し、現在は、障害福祉サービス事業所として、就労継続支援A型、B型、生活介護の3事業所、グループホーム10軒、地域包括支援センターなど、地域支援のための事業所指定管理事業を行っています。法人設立と同時に授産施設「共働舎」を立ち上げ、パン作り、花苗生産、陶芸、販売に取り組んできました。 ファール ニエンテを開設したきっかけは、横浜市営地下鉄線ブルーライン下飯田駅前の約1,000坪の土地を活用できないかとの相談を受けたことです。そこで、農作業の成果物をそのまま食材として使う、六次産業的な取り組み(農業などの一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態のこと)を目指し、これまで行ってきた園芸作業やパン作りを集約させる計画をスタートしました。 現在、A型事業「ベーカリー&食堂」に従事する利用者は8名、B型事業「農業&ガーデン」に従事する利用者は25名です。A型事業の利用者の給与は、最低賃金の月額10万円程度。B型事業者は、まだ賃金が低い状態で8,000円です。営業は10時から18時、定休日は木曜日です。常勤職員は7名、非常勤が24名です。レストランの席数は40席、敷地内に18台分の駐車場も用意しています(資料①)。

資料①

2018年度の売り上げは、予算をかなり上回る9,000万円近くになる予想です。1日の平均売り上げは約30万円。そのうちパンの売り上げは14万円です。レストランの売り上げも徐々に上がってきています。 利用者の就労時間は基本的に8時から15時までとなっており、水・木曜日もしくは木・金曜日の週休2日制です。レストランで働く人たちやパン作りの担当は土・日曜日に働くのが条件です。平日の休みについては、特段、事業所としてのフォローはしていません。グループホームや自宅から通っている利用者がほとんどです。ピザを焼く、パスタを作るなど一人ひとりが重要な担当を持ち、ある程度技術が上がると他の取り組みができるように仕事を任せていきます。 パン作りに関しては、横浜のパン屋が集まる勉強会に20年近く参加をしたこともあり、プロの方から協力を申し出ていただき、人気店で修行をしてノウハウを教わりました。コンサルタントをお願いしている方については1回2万円程度の契約で、他にも多くのボランティアの方々に協力していただいています(資料②)。

資料②

ファール ニエンテの3つの魅力

ファール ニエンテの魅力は3つあります。 1つは、横浜ピッツァランキングで現在8位の「味」です。スタート時から定期的にプロの方から技術指導を仰いでいます。お店の目の前の農園で栽培する無農薬野菜を食材として使うことも売りになっています。ピザの具材はその日に採れた野菜を使います。今日あるいは今週までしか食べられない旬のものを提供することが、お客様に受け入れられているように思います。自分たちで作った「僕らの小麦」という小麦を、石臼挽きの自家製粉で使用しているのも特長で、香ばしい味には自信があります。 パンは約50種類くらいをそろえ、日によって仕込みの数量や回数を調整しています。来客数が多い土日は仕事が増えるため、早く作業することをプロの方から習いました。当初は利用者が戸惑うこともありましたが、今では十分な働きぶりを見せてくれています(資料③)。

資料③

2つめは「ひと」(利用者を含めたスタッフ全員)です。事業をスタートした当初、ピザ焼き担当の、ある男性利用者は12時になると黙って食事に行っていました。しかし、ピザの焼き場がお客様から見えることもあり、次第に変化が見られ、今では14時くらいまで、1人で100枚程度を焼き続けることができます。自身の生活パターンへのこだわりを、少し横に置けるようになってきたのです。ファール ニエンテという舞台と、そこに来られるお客様が彼の行動を変え、仕事の喜びを得ることができたのだと思います。 また、ファール ニエンテを支える農園で働く人たちに、農園に見学に来られたお客様が「おいしかったよ」と声をかけてくださることもあります。「役に立っている」と実感が持てる機会となり、大変ありがたいことです。 3つめの魅力は「場所」です。ファール ニエンテとは「何もしない」という意味です。訪れた方が何もしなくても満ち足りるような空間づくりを目指しました。店内は高い吹き抜けの空間にゆったりと客席を配置し、敷地内は植物が多く、視界を遮るものが少ない環境です。庭も開放しており、芝生の上にシートを広げて家族でパンを食べていただくことができます。大道芸などのイベントも行い、客足を絶やさないように工夫しています。 また、ガーデンに植えられた約100種類の植物は、毎日手入れをしないと維持管理ができない品種を選び、地域の人たちに障害のある人たちが働いている風景を日常的に見ていただく工夫をしています(資料④)。

資料④

ファール ニエンテの今後の展望

農的活動の質の向上と、ボリューム拡大が目標です。すでに、小麦の収穫2トンを目指して1,000坪の新しい農地を借りました。B型の利用者も含めた賃金アップも大きな目標です。また、教育機関や他事業所、近隣の農家とのコラボレーションなど、さまざまな団体との連携の強化も考えています。 安定的かつ持続的な事業経営については、法人の役割や理念と、経営とのバランスをどう取るかが課題です。当法人は社会福祉法人として、地域からの要望に応えるべく、レストランの経営の方針も検討しなければならないことがあります。具体的に地域の方に対して、店を利用した地域貢献をしていきたいものの、ある程度店を回転させないと商売として成り立たないという現状をどのように両立させるか模索中です。これらの目標や課題をどのように達成するかを考えながら、今後も事業に取り組んでまいります。