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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

外国人介護人材との共生

事業を継続していくための決断
種別高齢者施設
開催年2018
テーマ職場づくり・専門性向上
外国人介護人材との共生

社会福祉法人 黒松内つくし園

外国人介護人材受け入れの背景

当法人が所在する黒松内町は、北海道の札幌と函館の中間にあります。人口3, 000人を切る過疎の地域ということもあり、介護人材の確保は難しい状況にあります。そこで、5年ほど前から外国人介護人材の受け入れに取り組むことになりました。 介護の問題について、まず挙げなくてはならないのが「2025年問題」です。団塊の世代が2025年ごろまでに75歳以上の後期高齢者に到達することで、介護人材が足りなくなるなどの問題です。介護の仕事は低賃金かつ重労働で、定着率が低いなどのネガティブなイメージがあり、なかなか人材が集まりません。今後もこうした状況が続けば、もはや日本人の労働人口だけでは介護事業は成り立ちません。そこで必要になってくるのが、外国人介護人材との共生です。 日本における、外国人介護人材の受け入れ可能な資格は次の3つです(資料①)。

①EPA(経済連携協定による介護福祉士候補生)

②外国人留学生+在留資格「介護」

③外国人技能実習生

資料①

当法人としては、②外国人在留資格「介護」と、③外国人の技能実習生の2つの方法で人材を確保していくことにしました。 最初に取り組んだのが、介護福祉士の養成校とタイアップし、留学生の受け入れを開始することです。それまで養成校も充足率が非常に悪く、北海道では50%を切るなど、なかなか学生が集まりませんでした。また、このままだと学校存続にも関わる状況を受け、いろいろと検討したところ、「外国人を留学生として迎え入れ、施設に勤めていただく事業を展開したらどうだろうか」という話になりました。そして、養成校の皆さんと協力をし、養成校で受け入れた学生に対し奨学金などの支援も含め、当法人で採用する流れを作りました。 続いて、外国人技能実習生の受け入れを行うことに取り組みました。 また、3つめは、介護事業者とタイアップし、介護だけの監理団体を設立し、全てにおいて自分たちで教育する仕組みをつくることに取り組みました。 さらに、4つめは、教育の仕組みも全て自分たちで作ることに取り組みました。 ここで、当法人で介護福祉士として働くベトナム人のAさんについて紹介します。 彼女は、アニメなどの影響で日本に憧れ、ベトナムの学校に通いながら日本語を勉強しました。北海道についてはよく知らなかったものの、インターネットで介護に関わる奨学金を見つけ、26歳のときに来日しました。そして、日本語学校に留学しながら介護の専門学校で2年間学び、日本の介護福祉士の資格を取得しました。 彼女は、当法人に勤め始めた当初、言葉や文化の違いがある中で高齢者とうまくコミュニケーションが取れるのかと不安を抱いていました。しかし、日本語能力検定N1に合格するほどの日本語力があるわけですから、ほとんど問題はありませんでした。むしろ、利用者の方に戸惑いが生じるのではとも思いましたが、こちらも全く支障がなく、自然なコミュニケーションができていました。 実は、Aさんのような優秀な人材は、確保するにあたっての競争が激しいのが実情です。そのため、EPAでは外国人を初めから介護福祉士の研修生として受け入れ、日本語の勉強や受け入れ施設での研修について、さまざまな補助やバックアップを用意しています。研修生は勉強しながら収入を得ることができますし、研修を終えて母国に帰っても問題はありません。国はできるだけよい条件をそろえて、介護業界に外国人の労働力を導入しようとしています。現在、介護福祉士が仕事を辞める理由の2割は、結婚や出産です。当法人で働く外国人も日本人同様、結婚退職や帰国があると想定し、1人が辞めても次のベトナム人介護福祉士を受け入れ、安心して働ける仕組みをつくろうとしているところです。外国人介護福祉士をどう呼び込み、どう継続・定着させられるかが、これからの鍵になるといえます。

外国人技能実習生の受け入れについて

外国人技能実習生受け入れについての、メリットとデメリットを紹介します。

【メリット】

  • 職場が明るくなった
  • 職場の活性化につながった
  • 日本人介護職員の意識変化(仕事へのモチベーションも高く、真面目な勤務態度がみられ、利用者からの信頼を得られている様子を目の当たりにして)
  • 日本人とは違う視点でのアイデアや発想が、新しいサービスを生むことが期待される
  • 業務幅が広がり、余裕が持てるようになった

一番多く挙がった意見が、「現場が非常に明るくなった」です。また、外国人スタッフのモチベーションの高さに刺激を受け、日本人スタッフがマンネリ化している業務などについて見直してくれるようにもなりました。また、日本人とは違った視点によるアイデアを持っているため、日本人スタッフが外国人スタッフに「これはどう思う?」と意見を求めることもよくあります。 一方で、次のようなデメリットもあります。

【デメリット】

  • 日本語教育等、職員の仕事量が増えた
  • 文化や言葉の違いによってストレスが生じる(異文化への理解)
  • 日本のルールやマナーを理解してもらうのが大変
  • 失踪や事件への不安

文化への理解については、日本人スタッフにもきちんと理解を求め、スタッフ一丸となって取り組む必要があります。その他の不安や心配については、職場内で共有し、「みんなで乗り切っていこう」と話しています。 また、実習生を受け入れるための課題としては、やはり環境づくりが一番大事だと考えています。一人前の介護職員になるためには時間がかかりますが、きちんと教えることができれば貴重な人材となります。長い目で育成していくことが大切です。 しかしながら、技能実習生としては、出稼ぎという感覚を持っている人も少なくありません。そのため、面接の中で介護職員として長く働いていただく意識や、働きやすい環境整備、その他当法人の受け入れ姿勢のことなどについて、きちんと説明をしていくことが重要だと考えています。なお、当法人としては、技能実習生には第3号(5年間)は施設で働いてほしいという考えをもっています。 また、外国人介護人材の教育については、私たちでその仕組みを考え、試行錯誤しながらつくっているところです。資料②は、当法人が教育に使う教材です。

資料②

最後に、外国人介護福祉士を受け入れるときに、失敗しないポイントを紹介します。

人材ではなく、人財として育成し、仲間としてともに仕事をする

  • お国柄、文化、歴史を理解する
  • 物事を、誠心誠意、きちんとはっきり伝える
  • 日本人職員と同等の処遇を心がける
  • ボーダレスの心を持つ(多文化共生社会の実現)
  • 日本人職員への理解と刺激を与える
  • 決して諦めず、どんな困難でも事業所一丸となって取り組む

以上、当法人の取り組みが少しでも皆さんの参考になれば幸いです。