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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

排泄予知ディバイスDFreeを活用した排泄ケア

QOLの向上につなぐ実践
種別高齢者施設
開催年2018
テーマ介護ロボット・福祉機器
ICT
排泄予知ディバイスDFreeを活用した排泄ケア

社会福祉法人 聖寿会
特別養護老人ホーム 健生苑

DFree導入の経緯

当施設は、今年で開設から34年目を迎えました。利用者定員は、入所50名、短期入所4名、平均介護度は4.09(2018年6月現在)です。常時オムツを使用している人は17名で、夜間のみ使用の方が18名です。2017年3月、排泄係の職員から「失禁を減らすために尿量の分かる機器がないか」との声が上がりました。経営者としても、オムツが外せれば「オムツ代や処理費用、洗濯の経費が浮く」などの狙いがあり、施設として検討することになりました。 尿失禁は、QOL疾患の代表的なもので、QOL低下の例としては次のようなものがあります。「失禁を知られると恥ずかしい」「外出を控えるようになる」「トイレに頻繁に行くことを気にして、水分摂取量を減らし、泌尿器系の疾患を発症」「夜間、何回もトイレに行くことで安眠が妨げられる」などです。中には、「他人にオムツを替えてもらうのなら死んだほうがマシ」との声も聞かれるなど、人としての尊厳にも関わる問題となっています。 これまでのオムツ外しでは、まず、排泄パターンの把握が求められました。そのための方法の一つが「ベテラン職員の経験と勘」に頼ることです。しかし、時にはその勘が外れることもありますし、ベテラン職員ばかりが勤務しているとも限りません。また、「尿の匂いがする」「ズボンが濡れている」と気づいた職員が、オムツの中をのぞいたり、匂いをかいだりすることで排泄を知る方法もありますが、利用者としては周囲の目が気になります。 もちろん、利用者本人から排泄の訴えがあることもあります。ただしこれは「もうすぐ出そう」というときに対応できる職員がいることが条件です。すぐに対応できない環境では、「どうせ呼んでも来ない」「職員は忙しいから迷惑をかけられない」などと諦めてしまうことになります。職員の方も、訴えがあったが、排尿が見られないことが重なると、「またか」「後で行くからいいか」という気持ちになってしまうこともあります。 また、身体が動かせない、尿意がない、認知症などにより、職員に訴えを表現できない利用者もいます。その場合は、もじもじしていて落ち着きがないなどの様子から、職員が「トイレに行きたいのではないか」と推察します。このときも、オムツの中をのぞいたり、トイレに誘導したりしますが、排尿以外のサインだった場合には、信頼関係が崩れるトラブルにつながることもあります。 そこで当施設では、経験や感覚ではなく、データに基づいた排泄ケアをするために「DFree」の導入を検討することになりました。

DFreeの導入と試用

DFreeは、超音波センサーによって膀胱の大きさを測り、手元のタブレットやiPhoneにたまっている尿の量をグラフで示し、「そろそろ尿が出そう」というタイミングを教えてくれる機器です。資料①のように、本体とセンサー部分に分かれています。

資料①

まずは、導入に向けたモバイル環境の整備を行い、1カ月間のトライアル使用を実施し、2017年7月に、正式に導入することを決めました。 導入台数は、利用者の1割にあたる5台です。つまり、50人の利用者に順番に同じ機器を使用することになりますので、使用前にはアルコールなどで消毒をし、使用後も再度消毒するなど、衛生管理を徹底しました。 また、実際にDFreeを導入した感想や意見からわかったことを紹介します。まず、DFreeを導入することでオムツなどにかかる経費が削減することを想定していましたが、履くタイプのオムツに変更したり、尿取りパットを使用したりすることから、必ずしも経費が抑えられるわけではないことが分かりました。 そして、利用者については、尿意があり、伝えられる方であれば、トイレまでの移動や、服を着脱する間の立位保持、便器への移乗、座位の保持などADLがそろえばトイレでの排泄ができるようになることもわかりました。もし、ある程度のADLがあるのにオムツが外れない場合には、生活空間や人員配置など環境面に問題があるのではないかと考えることができます。一方、オムツ外しを目標にできない方に対しては、DFreeをどう役立てることできるかを考えることになりました。

DFreeの具体的な活用

DFreeを正式に導入してから6カ月が過ぎ、介護職員が取り扱いに慣れてきたため、看護師を交えたグループに分かれ、DFreeを使って何ができるかを考えることにしました。まず、グループごとの情報共有にはノートやグループLINEを使い、全職員の情報共有には、毎日の申し送りと、毎月の介護委員会でケースカンファレンスをすることにしました。それぞれのグループから出された意見は大きく4つです。 ①排尿があってからオムツを交換するまでの時間を短くすることで、尿による皮膚かぶれ、じょくそうなどの皮膚疾患、膀胱炎や尿道炎、腎機能低下などの疾患を予防する ②睡眠中のオムツ交換や排尿点検を減らし、睡眠を妨げないことで、昼間の生活状況の改善を図る ③膀胱内の貯留量が見える化されることで、外出中のトイレ誘導のタイミングが分かり、トイレが心配で外出を控えることがなくなる ④失禁のタイプを知ることができ、それに応じた対応ができる。また、バルーンカテーテル抜去後の、尿閉の危険性の有無が分かり、バルーンカテーテルを外すためにも使えるのではないか 次に、具体的な事例を1つ紹介します。 90代の女性Aさんは、排泄する際、常時オムツを使用されています。手足のまひは見られませんが、手足の変形、拘縮があります。精神疾患があり、同じ言葉を繰り返されることや、話の内容が噛み合わないことがあり、尿意、便意の確認が難しい状態です。掻痒感があり、臀部に掻き傷が見られました。また、排泄後の不快感からか、不眠にもなっていました。 これらのことから、DFreeを活用して掻痒感を軽減させ、安眠につなげることを目標にしました。観察点としては、掻痒感はないか、夜間の不眠状態と排泄の関係性、膀胱貯留量はどの程度かを見ていきました。 AさんにDFreeを使用して分かったことは、熟睡中は排尿の間隔が長く、貯留量60%前後で排尿が見られることです。定時と随時のオムツ交換から、資料②のようなDFreeのグラフを活用し、排尿があった時点で、タイムリーにオムツ交換を行うようにしました。その結果、以前に比べ、夜間も良眠される日が多くなり、日中、元気に過ごされることも増えたように感じます。

資料②

このDFreeは、高齢者施設以外でも広く活用できます。例えば、尿の「ちょい漏れ」に悩む方が膀胱訓練や骨盤底筋を鍛える体操をしても、あまり効果は実感できません。しかし、DFreeを使えば「80%まで蓄尿できるようになった」など、グラフで示されるため、数値に基づく訓練ができ、成果が実感しやすくなります。また、在宅介護では介護者が端末を持つことで、利用者の排尿に合わせてトイレ誘導やオムツ交換ができ、交換や洗濯などの負担が少なくなります。 DFreeをはじめ福祉機器の導入にあたり、単に職員の補完という視点ではなく、「どのように利用者のQOLの向上に活かすか」という視点をもつことが必要となります。当施設では、今後も「利用者のために何ができるか」という思いを忘れずに福祉機器を活用していきたいと思います。