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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

福祉機器と“共に生きる”

職員と利用者をサポートする 福祉機器で介護を豊かに
種別高齢者施設
開催年2019
テーマ介護ロボット・福祉機器
ロボット介護機器ICT
福祉機器と“共に生きる”

社会福祉法人 友愛十字会
特別養護老人ホーム 砧ホーム

活用の場が広がる福祉ロボット

当法人は、昭和25年に設立した施設です。私は機能訓練指導員という立場で介護職員と関わりながら、福祉用具や道具によって介護を豊かにできないかと考えてきました。そのようなことから「福祉用具専門相談員」や「リフトインストラクター」の資格を取得するなど、勉強しながら福祉機器の導入を進めてきました。
最初にご紹介するのは、装着型移乗介助ロボット「マッスルスーツ」です。中腰姿勢をサポートするもので、主に排泄介助や入浴介助の場面などで活用しています。
資料①がベッドでの排泄介助の様子です。

資料①

準備の段階からマッスルスーツを装着し、利用者の横で空気を背中に送り、補助力をつけてから中腰姿勢で介助します。
装着型の移乗介助ロボットは施設の外でも手軽に利用できるため、高齢者福祉実践・研究大会など、介護の魅力を広くアピールできる場で来場者が装着して体験することができます。また、当施設の職員が区庁舎へ行き、区長にマッスルスーツを体験していただきました。これが、その後の補助金制度につながるきっかけの1つになったのではないかと思います。介護補助のロボットにはさまざまな分野があり、介護以外の場面でも使えるという特徴があります。装着型の移乗介助ロボットはこれからますます活用の場が広がると期待しています。
また、コミュニケーションロボットも導入しています。一見、普通のぬいぐるみのような外見ですが、たくさんのセンサーが入っていて、いろいろな反応をしてくれます。職員のお子さんのお下がりの服を着させて、ペット用のケージやクッションを使うと、いかにもペットらしい演出ができます。名前も利用者と一緒に考え、投票で「パロちゃん」に決めました。導入直後は、服を着させていない状態のパロちゃんを利用者に紹介して、廊下の脇の机の上に置いていました。最初はかわいいと関心を示してもすぐに飽きてしまっていたのが、ペットとしていろいろ手をかけるようになると、利用者がパロちゃんに毎日会いに行くようになりました。
資料②の写真にあるように、

資料②

自室から車いすでパロちゃんに会いに行くことが「運動の場」となり、同じようにパロちゃんに会いに来た利用者との「出会いの場」となり交流が生まれています。そして、パロちゃんに触れることで癒されるというセラピー効果があります。使い方しだいで、身体的・精神的・社会的な効果を多様に引き出すことができると感じました。

リフト導入時の選定基準とは

当施設は、4人部屋がカーテンと間仕切りで仕切られた従来型の多床室で、非常に狭い空間です。その部屋に、どんなリフトを入れるのかを想像していただければと思います。
一般的に2つのリフトが想定されます。1つは床走行式のリフトで、タイヤがついて移動できるタイプです。もう1つはベッド固定型のリフトで、ベッドの重さで固定するタイプです。それぞれ特徴があります。床走行式は複数の人に使うことができ、ベッド固定型は一人にしか使えません。また、利用者を支える吊り具も2種類の候補が上げられます。1つは脚分離型といわれるもので、取り外しができて複数の人に使うことができます。もう1つはシート型といわれるもので、ハンモックのように吊るして移乗し、椅子に敷いたまま使用するので一人にしか使えません。
私たちが選択したのは、ベッド固定型リフトです(資料③)。

資料③

いろいろなデモ器で試した結果、使いやすいことを実感したからです。床走行式リフト、脚分離型吊り具など、さまざまな組み合わせで試しました。福祉機器は使う人の立場に立って選定することがとても大事だと思います。介護職員の視点から、一番使いやすいものは何だろうと突き詰めていった結果が、今回の導入の成功につながったと思います。ベッドに固定されているので、探す必要もなく、同じ場所で同じように 使えるので、確実に職員が使うようになります。これにより、職員の技術向上にもつながります。「もっと導入してほしい」と介護職員からリクエス トがあり、現在は6台に増えています。

ICTによる情報共有と見守り支援

施設の中ではWi-Fi環境を構築し、介護ソフトとタブレットやモバイルパソコンを使って、職員間のコミュニケーションに役立てています(資料④)。

資料④

これまで、利用者の様子などは、職員がその都度スタッフルームに戻って手書きで記録することで共有していました。ICT導入後は、入力するだけで情報を共有できるため、職員の負担が軽減されています。利用者にとっても、職員がその場を離れずに済むことで、不安な時間が減り、安心感につながります。
介護の現場では、見守り支援も重要です。介護関連のロボットもさまざまな機種が出ています。私たちが選んだのは、「見守りセンサー」というものです。車のドライブレコーダーのように、見守りセンサーも利用者の転倒や転落したときの状況が記録されます。こうした施設内で起こる事故に対して、この画像を振り返ることで予防策を立てることができます。転落時の状況から、利用者のADLの低下が分かり、その後のケアプランの変更につながった事例もあります。また、インカムを使うことで、ナースコールがいくつも同時に鳴り出したり、すぐにはその場を離れられない状況下 で指示を受けたりした場合にも、職員同士で状況を判断しながらスピーディーかつ効率的に機能できます。
人類の営みは、道具によって進化してきました。福祉や介護の人材不足の問題もありますが、こうした課題解決の一助となるのが福祉機器なのではないかと思います。介護ロボットなど福祉機器は高額なものが多いのですが、政府もさまざまな補助金などを準備しています。年度が変わり、補助金の説明会があるのが夏ごろで、その後の申請になります。それまでにどのような福祉機器が必要なのか、実際にデモンストレーションをして現場への適応を見て、準備を進めておくとよいと思います。ただし注意しなくてはいけないのが「道具が何かをしてくれるというわけではない」ことです。道具と効果の間には「使い手」がいます。使い手がしっかりと福祉機器を使えてこそ効果が発揮されるのです。そうすれば、職員2人で介助していたところを1人で済むようになるなど、費用対効果にも表れてくると思います。私たちはこれからもこうした視点をもって介護福祉を支えていきたいと考えています。