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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

まちと共に 未来をともに

種別高齢者施設
開催年2019
テーマ地域公益事業
まちと共に 未来をともに

社会福祉法人 正和会

地域におけるニーズを把握

当法人は、奈良県五條市と和歌山県橋本市の県境にあり、四季折々の風情が楽しめる山間部に立地しています。五條市の人口は3万人弱、高齢者率は全国平均を上回る35%と高い水準です。主な事業として、介護老人福祉施設をはじめ、老人保健施設、グループホーム、ケアハウスなど348名が入所できる施設と、186名が利用できる通所施設や各種デイサービスなどを運営しています。
平成5年の設立当初から、少しでも地域の方のお役に立てたらと、在宅高齢者を対象に趣味活動の場を提供してきました。平成28年の社会福祉法人制度改革を機に、社会福祉法人として私たちに何ができるかを再認識するため、今までの活動の見直しを図ることにしました。
最初に行ったことは、地域におけるニーズの把握です。問題や課題について調査してみると、「介護・健康不安」と「世代を超えた地域住民の交流」という大きな2つの課題が見えてきました。その上で、当法人は「地域とつながる正和会」を5年後のビジョンに掲げ、「交わる世代」「支える暮らし」「楽しむ未来」という3つのコンセプトで取り組んでいくことを決めました。人手不足といわれる中で、日々の業務もたくさんあります。新たな取り組みがプラスαの業務として負担にならないように、余分なものは切っていくという業務の断舎利プロジェクトを行いながら、時間を最大限に生かすようにしました。

「やりがい」「つながり」を生む場づくり

「楽しむ未来」の事業として、60歳以上の方を対象に趣味活動を通した交流の場「未来塾」を開催しています。メニューは、陶芸、絵手紙、手芸、囲碁があり、教室で制作した作品は、定期的に開催する「手作りマルシェ」で展示・販売を行っています(資料①)。

資料①

「交わる世代」の事業として、国の重要伝統的構造物群保存地区にある五條市起業家支援施設「大野屋」を借りて、地元の方のくつろぎの場となるよう喫茶店を運営しています。地元の農家から食材を仕入れ、軽食や飲み物を提供しており、地域の方から回収した本で、子どもから大人まで楽しめる図書コーナーも設置しています。本には書き込めるしおりを付けて、前回読んだ方が感想を 記入して次の方へ渡せるようにしたり、当法人の入所者が作ったストラップを希望者にプレゼントしたりしています(資料②)。
また、市内のショッピングモールの店舗を借り、各種ボランティアの協力により、無料で参加できるウクレレ教室や歌声サロン、共鳴音を楽しむシンギングボウル、絵手紙教室のほか、ワンコインや低料金で参加できるヨガ教室、セルフケア教室、陶芸教室、キッズ向けの英語教室や美術教室などを開催しています。夏休みには、未来塾の参加者が地域の子どもに陶芸や手芸などを教えて夏休みの宿題をお手伝いする「子供未来塾」も開催しています。
そのほか、地元の祭りが後継者不足により開催できなくなったため、当法人が継承し、毎年地域の方と一緒に開催しています。秋のイベント「秋穫祭」は、フリーマーケットの会場を地域の方へ無料で提供し、1,500人もの来場者で賑わう当法人最大のイベントとなっています(資料③)。

資料②

資料③

不便や不安を支援する取り組み

「支える暮らし」の事業として、市内の小学校へ出向いて防災時の対応について出前授業を行っています。実際に備蓄非常食を紹介しながら、災害時の食の大切さを伝えています。また、次世代育成として、高齢者福祉の理解と役割について楽しく学べる授業を、授業参観の機会に実施しています。
地域全体では、地域防災協定を結び、年1回、合同防災訓練を実施しています。自治会の役員と当法人の専門職員でテーマを決め、防災に対する備えを共有しています。たとえば、災害時に起こりうる身体の症状を想定した内容で、講義や避難訓練などを行っています。この講義への取り組みは、職員のスキルアップにもつながっています。
交通の便が悪い山間部の地域には、出張フィットネス、介護教室、転倒骨折予防教室などの出張サービスを行っているほか、近年、社会的問題になっている「高齢者の免許返納」に向けた取り組みの一つとして、2019年8月から循環バスの運行を始めています。市内にはコミュ二ティーバスやバス会社が運行する路線バスはあるものの、身体に障害のある方や歩行に困難のある高齢者などは自宅からバス停までの行き来ができないという問題がありました。そこで、市や自治会と協議し、当法人がバス停までの送迎を行うことになりました。
そのほか、自治会の要請により月1回、公民館で健康体操なども行っています。毎週土曜日と水曜日には、デイサービスのトレーニングマシーンを地域の方に有料で開放し、利用者からの身体の悩みや介護の悩みなどがあれば、当法人の専門職へバトンを渡し、解決に向けて取り組むシステムを構築しています(資料④)。
子育て世代の支援として、専門家を講師に招いて、子どもの個性や才能を開花させるコミュニケーションのノウハウについて学ぶ講座や、お金の大切さをゲーム方式で学ぶことができる子ども向けのマネースクールなども開催しています。

資料④

地域住民に寄り添う法人をめざして

これらの取り組みを行った結果として、各種教室やイベントの参加者自身が変化を感じたことの1位に「心身ともに元気になった」、2位に「人とつながりができた」、3位に「生きがいができた」、4位に「将来の不安がなくなった」というアンケート結果が得られました。この回答から、「子どもには迷惑を掛けたくない」「今まで一人で将来のことを考えて不安になっていた」という思いが読み取れます。教室やイベントに参加したことをきっかけに、不安な思いを共有できて安心感が生まれ、安心感が生まれたことで心身機能の向上につながり、元気になった参加者が新たな参加者を呼ぶ流れが生まれ、教室の参加者数はどんどん増えています。当法人の専門は高齢者分野ですが、分野横断的な事業を展開していく中で批判的な声も多くありました。しかし、地域共生社会の実現に向けて誰かが取り組まなければならない問題がたくさんあります。私たちは、これから正和会はどうなっていくべきなのかを職員同士で討論し、今持っているノウハウの中でできることから始めていきました。
これからも地域住民同士で助け合いながら、10年後、20年後も安心して暮らせる町づくりをめざしていきたいと思っています。そのために、母体の事業の基盤を確立しつつ、地域住民の方に寄り添い、その中から「当法人に何ができるか」を考え、地域貢献を発展させていきたいと考えていま
す。