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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

職場における企業在籍型ジョブコーチの効果的かつ具体的な支援内容について

種別障害者施設
開催年2019
テーマ職場づくり・専門性向上
職場における企業在籍型ジョブコーチの効果的かつ具体的な支援内容について

社会福祉法人 阪神福祉事業団

ジョブコーチ就任までの経緯

当法人は、兵庫県の西宮市北部で主に入所系事業に取り組んでおり、職員数は常勤・非常勤合わせて約320名、施設利用者は全体で約560名です。障害者雇用への取り組みについては、平成26年度までの障害者雇用率は平均2.22%と当時の法定雇用率を上回っていましたが、以降は定年退職などにより雇用率が下がることが予想されました。そこで、積極的な障害者雇用に向けた組織体制を整えるため、「ジョブコーチ」の養成研修を私と中野の2名で受講し、企業の中で実習の受け入れや採用、定着支援、関係機関との連携を行う「企業在籍型ジョブコーチ」に就きました。そして、実務責任者であるセンター所長と人事担当者を加えて、障害者雇用推進事務局を結成し、各事業所から1名を障害者雇用推進委員に任命し、法人全体で組織化を図りました。現在は、障害者雇用推進事務局に企業在籍型ジョブコーチ(以下「ジョブコーチ」)を3名配置しています。

面談を重ねることの重要性とは

私たちがジョブコーチとして行っている具体的にいて、様子を見ておくだけでも、支援者の存在な支援は、主に次の5つです。

①定期的な面談
②就労支援機器の活用
③関係機関と連携した家族支援
④配慮と改善
⑤評価と目標

①の「定期的な面談」は、ジョブコーチ1名につき、2〜3名を担当します。雇用後1か月程度は週3〜4回実施し、仕事に慣れてくるに従って、面談回数を週1回から2週に1回と頻度を減らしていきます。とくに精神障害のある人は、仕事のスキルよりもそのときどきの気持ちの変化が大きく、仕事中の些細な出来事やプライベートでの出来事が仕事に影響を及ぼすことがあります。面談後には明るい表情が見られる方も多く、自分の気持ちを出せる場所、伝える人がいることの大切さを実感します。
また、知的障害のある人は自分の気持ちを話さずに不安をため込んだり、仕事に没頭してオーバーワークになったりします。そのため、雑談ではなく、しっかりと向き合って話し合う時間を設けます。日頃、思っていること、業務改善につながることを話すことができるので、その内容についてその場でお互いに確認し、記録用紙に記入します。
一方、発達障害のある人の場合には、面談を設けても「とくに困っていません」「話すことはありません」とよく言われるのですが、日頃から近くにいて、様子を見ておくだけでも、支援者の存在を理解して安心する方が多いと感じています。
このような面談が、2の「就労支援機器の活用」にもつながります。身体障害と精神障害のあるAさんは、感音性難聴のため両耳に補聴器を使用しています。特別養護老人ホームで洗濯業務をしており、常に大型の乾燥機や洗濯機、換気扇が回っている環境下では声が聞き取りづらい様子でした。そこで、受話器の音を増幅させる機器「テレアンプ」(資料①)の導入を事業所に掛け合い、設置してもらいました。その後に起こった大阪北部地震の際には、震度5弱という大きな揺れの直後に、事業所の管理者がAさんに乾燥機のガス栓を閉めて避難するように電話で指示しました。緊急事態の中、指示がAさんに明確に伝わり、迅速かつ安全な対応ができました。普段の面談でAさんを理解し、事業所とも情報共有をしていたことが役立った事例です。

資料①

連携による多面的支援

③の「関係機関と連携した家族支援」についてです。就労移行支援事業所に通っている知的障害者の場合、採用後はトライアル雇用(3か月)の間、就労移行支援事業所の訪問型ジョブコーチによる週1回の職場訪問支援があります。さらに福祉サービスを利用している場合には、相談支援事業所の相談支援専門員も関わります。私たち企業在籍型ジョブコーチが週1回の面談を実施し、面談内容を日誌に書いて関係者に報告します。相談支援専門員が定期的に家庭訪問し、仕事の状況を家族に報告するほか、訪問型ジョブコーチ、企業在籍型ジョブコーチ、相談支援専門員に家族を交えた四者でのモニタリング会議を月1回実施しており、本人支援と家族支援の両面を行っています。
④の「配慮と改善」については、主にルールの範囲内で配慮をすることを心掛けています。とくに多い例が、休憩時間の取り方です。障害者雇用の方々は「お昼休憩に45分もいらないので、業務と業務の間に体力や集中力の回復をするための休み時間がほしい」と希望されます。そのため、お昼休憩30分と、5分休憩を3回にしたり、お昼休憩40分と、午後に5分休憩を設けたりします。また、気温や湿度などに敏感な方には、ユニホームを変更するなどの改善を行い、快適な仕事環境を提供しています。
⑤の「評価と目標」については、私たちジョブコーチと職場内の支援者で役割を決めています。まず、ジョブコーチが実習などの依頼を受けると、依頼のあった事業所に調査に向かいます。その後、受け入れとなった場合には、本人や事業所からアセスメントを実施し、障害の特性や配慮事項などの確認をしていきます。実際の仕事内容を決めた後は、定期的に仕事に対する評価をジョブコーチが行います。
評価方法は、それぞれ5つの中項目からなる4つの大項目「基本的なルール」「社会生活」「作業態度」「作業遂行能力」をそれぞれ5段階で評価し、4つの五角形でグラフ化します(資料②)。さらに、「職業適性」「基本的労働週間」「対人技能」「日常生活管理」「健康管理」の5つの層からなる「職業準備性ピラミッド」(資料③)で表し、バランスの取れたピラミッドを形成するためにどのような支援が必要かを、モニタリング会議で今の状態を確認しながら関係者で話し合います。その結果を職場内の支援者に伝えて、支援者が改善のための掲示物を作成するなど注意事項などを視覚化し、利用者本人、支援者、ジョブコーチの三者で確認しています。よりバランスの取れた五角形、あるいはピラミッドに近付くことで、本人だけでなく職場内の支援者にとっても励みとなり、次の目標や支援に進むことができます。

資料②

資料③

障害者雇用の発展のために

令和元年度6月1日時点での障害者雇用状況報告書の実雇用率は、3.92%と目標値を上回る成果が得られています。次の課題は、雇用定着です。精神障害のある人の3年目を超える定着率は6割程度といわれていますので、すべての障害のある人に向けてしっかりとしたサポート体制を取り、定着支援に力を注いでいきます。また、兵庫県精神障害者社会適応訓練事業の協力事業所や、障害者仕事体験事業の協力企業に登録している法人として、仕事に対するハードやソフトを積極的に提供して、働きたい障害のある方々へのサポートに努めていきます。
障害者雇用を通じ、地域に対して何ができるかを考え、就労をサポートする福祉機関や、相談機関、病院や行政、家族と、多くの方々と連携しながら障害者雇用を発展させていきたいと思っています。