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福祉施設の実践事例

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コロナ禍における障害者就労支援事業所の仕事の確保と工賃向上への取り組み

種別障害者施設
開催年2020
テーマ新型コロナ感染対策、ニューノーマルな支援
コロナ禍における障害者就労支援事業所の仕事の確保と工賃向上への取り組み

特定非営利活動法人 とくしま障がい者就労支援協議会
社会福祉法人 徳島県身体障害者連合会
就労支援B型事業所「社会就労センターかもな」(徳島市)

 徳島県は県内の障害者就労支援事業所で働く障害者一人当たりの2018年度の平均月額工賃が22,235円となり、初めて全国1位になったことが、今年5月の厚生労働省の調査報告でわかった。
 徳島県の就労支援事業所における仕事の確保策については、本年のコロナ禍においてさまざまな工夫が施され、全国的に状況が厳しいなかにあっても奮闘し、継続しての高い実績につながっている。本レポートでは、その具体的な取組について、「とくしま障がい者就労支援協議会」と「社会就労センターかもな」の事例を挙げて紹介する。

「とくしま障がい者就労支援協議会」(理事長 松下義雄氏/以下、協議会)は平成12年に設立された特定非営利活動法人であり、現在、県内の45の就労支援事業所が加盟している。
 協議会はコロナ禍が本格化した本年4月、独自に県下の就労支援事業所に調査を行い、今後の仕事の確保について懸念が生じている状況をいち早く確認した。そのなかで、コロナ禍においても、マスクの生産を行っている事業所については売り上げが伸びている事実に着目し、行政に対し、県としての事業化を提案した。その結果、県では6月補正予算のなかで「障がい者の就労・雇用の創出」部門の「つなぐ・ひろがる・障がい者就労開拓事業」として予算確保をし、その事業項目の一つとして、「つながる」マスク等製作事業、としての位置づけにつながった。
 協議会では、布マスクやフェースシールドなど「新しい生活様式」で求められる製品の制作を県から受託し、働くことを希望する障害者の就労機会を継続確保するとともに、製品を必要とする保育所や幼稚園、特別支援学校に無償配布した。市町村を通じて把握した必要枚数として、子ども用マスク1万枚、職員用マスク600枚の製作を手がけており、現在も対応継続中である。マスクを製作する工程を7つに分け、協議会に加盟する事業所にそれぞれ、布の裁断やゴム通しなどの作業を振り分けて取り組んでいる。

 

事務所ごとに工程を分けてマスク制作

 

 また、県の予算化に結びついた事業としては、いわゆる農福連携もそのひとつだ。
 協議会では2016(平成28)年から農業分野にも事業進出しており、2018(平成30)年には野菜ソムリエ等農業の専門家の意見を採り入れつつ、各事業所での野菜作りに取り組むとともに、農家の作業支援のために事業所利用者が出かけていくという取り組みを、県とともに推進していた。
本年8月には農福連携推進検討会を、県農林水産部、障がい福祉課、就労継続支援A型事業所、農政局、JA等の参画のもと立ち上げ、先の取り組みに拍車をかけている。従来、農家の作業手伝いは外国人による作業が主流であったが、コロナ禍においてそれが継続できなくなり、就労支援事業所の利用者が取り組むことになったという経緯がそこにある。

 さらに、9月には農福連携推進研修会を、農業法人、経営者協会、農業支援センター、JA、行政関係者等約90名が参加して行い、そこで農家と就労支援事業所とをつなぐマッチングを目的とした個別相談事業も実施した。たとえば、採れた野菜でもってドレッシングを作れないかという民間企業(農家等)の意向を、それが可能な就労支援事業所につなぐという相談だ。これは、就労支援事業所が幅広い作業に対応できることへのアピールにもつながっている、と松下理事長は語る。

 

農福連携にも本格進出

 

 加えて、「移動マルシェ」事業にも注目したい。これは県からの受託事業のひとつであり、5か所の就労支援事業所が連携し合い、買い物難民な状態になりやすい山間地域に、移動販売車を使用して、他事業所で栽培した農作物や6次産業化商品を積み込んで販売に行くというものだ。すでに取り組みは始まっているが、11月からさらに本格化する、という。

 

山闇地域への移動マルシェ

 

 また、相次ぐ地域イベント等の中止により、せっかく栽培した農作物を外部で販売することが厳しくなったため、協議会が運営する「awanowaカフェ」(徳島県立障がい者交流プラザ内)を活用し、独自に定期的な「小規模農福マルシェ」も開始した。規模は大きくはないものの、同プラザへの来訪者や関係団体職員等に好評な取り組みとなっており、ほぼ完売状態である。

 

小規模農福マルシェも好評

 

 現在開発が進んでいる「ECサイト」は、国の予算を活用して県と共に取り組んでいる事業であり、Webで就労支援事業所製品の販路拡大をめざすものである。これもまた、各地での販売が厳しい状況下にあって、Web上で物品販売システムを構築し、全国に対し事業振興をはかっていこうとする新たな取り組みである。来年からの稼働に向けて、いまシステム構築の最終段階に入ろうとしている。

 

 連携は農業だけではない。県漁業協同組合連合会や県の水産振興課と連携し、特産品である「鳴門わかめ」の計4万袋の発注を協議会として受けた。水産業者から送られてくる乾燥わかめを15gずつに仕訳して袋詰めを行う作業を、県内の就労支援事業所に分配して行なっている。

 

名産品に関わる受注作業

 

 このように協議会が行政との窓口役となり、いわゆる共同受注窓口の機能を担っている功績は大きい。個々の事業所が官公需の働きかけを行うことはなかなか困難であり、結果として大きな受注にはつながらないことであっても、共同受注窓口組織が機能すれば、各事業所が連携しあったり分業しあったりしてさまざまな事業に取り組むことが可能であるし、スケール感のある仕事の受注が可能ともなり、こうした取り組みが、コロナ禍においても有効に機能している好例であろう。

 

 徳島市内に就労支援B型事業所「社会就労センターかもな」がある。運営は、社会福祉法人 徳島県身体障害者連合会(理事長 久米清美氏、施設長 三橋一巳氏)。県内でも工賃の支払額はトップクラスの事業所である。
 同事業所は、平時は印刷・表装・ベーカリーが主な事業内容であるが、コロナ禍においては、ベーカリー事業、すなわちパンの製造・販売部門が大きく動いた。従来は県内45か所に販売に出かけていたが、コロナ禍が始まり、緊急事態宣言下において販売可能な箇所も劇的に制限され、売り上げも落ちていった。
 そのような状況のなか、就労支援事業所が陥っている実態について地元新聞社の取材が入り記事化された結果、地域で主に高齢者介護施設を運営する社会福祉法人が、そういう厳しい状況であれば協力したいと、パンの受注の依頼をしてくれるようになった。当該法人は県下で26施設・事業所を運営する規模であり、そうした地域関係団体の理解があって、パンの販売事業は継続することができた。
 また、地域の大型量販店においても毎週日曜日に販売をしていたが、コロナで厳しい状況になっていることから、金・土・日・祝日へと販売機会を増やしてもらうことができた。なお、その際、就労支援事業所には販売に関する感染対策のノウハウが薄い状態にあったが、「ここへの出店機会の増に伴い、トレーの消毒の仕方やシールドの設置等のノウハウを併せて学ばせていただけたことはとても意義があった」と三橋施設長は語る。
 さらには同時期に、就労支援事業所の状況を理解した地域のゴルフ場から、景品としてのパンの注文が入ったことも好機となった。

 

地元企業の協力によるパンの継続販売

 

 役務については、とくに除草作業について県から受託して実施しており、昨年度は一昨年度の約3倍近い金額の受託へと延びている。
 県有地等の除草作業は、従来はシルバー人材に委託されて行われていたが、コロナ禍にあって高齢者が作業困難な状況のため、自治体としてもそうした関係団体に発注できず、結果として、協議会に加盟する就労支援事業所への依頼につながった例である。

 

 また、「社会就労センターかもな」では、平時から関係のあった、施設に理解のある地域の企業からの情報収集を続けていくなかで、空気清浄機や非接触型体温計、デスクついたて等の衛生機器の販売仲介関係事業についても開拓することができ、その手数料が計上できるようになった。

 

 コロナ禍を機としての官公需の高まりや地域の関係団体等による理解による取り組み拡充だけではない。例えば「社会就労センターかもな」では、ふだんパンを購入するにあたってサービス券を保有している地域の人たちに対し、利用者が記した1,000通もの感謝の手紙を出したことにより、さらなる受注の継続・拡充につながったという取り組み工夫もある。
 「とくしま障がい者就労支援協議会」の松下理事長は、「いま県内の就労支援事業所の利用者は、全国1位の工賃を生み出しているという自負があり、コロナ禍に負けない、働く意欲と自信につながっているようだ」と語る。